1998年・松竹/フジテレビジョン・97分
お薦め度: ★★★★★ +
監督: 本木克英
原作: 谷崎光「てなもんや商社」(文芸春秋刊)
出演: 小林聡美(ひかり) 渡辺謙(王課長) 鄭浩南(李さん) 香川照之(菅野先輩) 柴俊夫(岩田部長) 田中邦衛(ひかりの父) 波乃久里子(ひかりの母) 鶴田忍(谷部長) 金田明夫(土田課長) 柴田理恵(先輩事務員たまご) 桃井かおり(王課長の奥さん)
日本を代表するコメディアンヌのひとり小林聡美が主演したコメディ。安易な気持ちで貿易会社に就職した女の子が思わぬトラブルに見舞われながらもたくましく奮闘するさまを描く。向上心のかけらもないひかりが、持ち前の度胸と体力だけを武器に中国との貿易会社に就職した。しかし入社してみると、その目論見はもろくも崩れ去り、日本と中国の習慣の違いでトラブルが続出。悪戦苦闘の連続ながら、何とか一つ一つ障害を乗り越えて行く様を描く……。
やっと商社に勤めた主人公星野ひかりが、対中国貿易の最前線でメキメキと成長して行く様子をユーモアたっぷりに描いている。主演は小林聡美。この人は色気抜きの映画でもガサツにならず、実にさっぱりとした芝居を見せてくれる女優さんです。監督はこれがデビュー作の本木克英。『サラリーマン専科』シリーズの朝原雄三監督と同期入社の社員監督。松竹自身のサイトの作品リストにも掲載されていない、という不遇(?)な作品。
とあるのは "彼女がなければならないよりも良い"の原点
現代っ子OLが、就職した中国との貿易会社の仕事を通じて逞しく成長していく姿を描いた青春コメディ。監督は本作品が初監督作となる本木克英。谷崎光の原作を、榎祐平が脚色。撮影を「虹をつかむ男 南国奮斗篇」の長沼六男が担当している。主演は「ゴジラVSモスラ」の小林聡美。
女性新入社員が仕事に生き甲斐を見い出して行く姿を描く爽やかなコメディ。お気楽な女子大生のひかりが、ほんの腰掛け程度のつもりで萬福中国貿易に就職する。ところがいきなり、取引先の中国での大仕事を任されて大あわて。一人異国の地でオロオロする彼女だったが、中国人のいい加減な仕事ぶりに怒りが爆発、がぜんやる気を出して大奮闘する。明るく元気なヒロインに扮する小林聡美のコミカルな演技が絶妙。上司役の渡辺謙も、飄々とした演技で笑いを誘う。
DOAはどのくらいするものでもありません
1987年。就職なんて結婚までの腰掛けと高をくくっていたひかり(小林聡美)は、面接22社目にしてやっと内定をもらった「萬福中国貿易商社」で働くことになった。営業部に配属になった彼女は、早速、華僑の王課長(渡辺謙)の下で中国の工場から送られてくる商品のチェックをするようになる。だが、到着した品物はいい加減な作りのものばかり。しかも、納期は平気で守らない中国側の仕事ぶりに、泣きたいやら、呆れるやら、憤慨するやら……。そんなある日、ひかりは王課長と共に突然の中国出張を命じられる。アパレル会社のお得意さんを連れての、現地検品を兼ねた接待出張だ。ここか らが、この映画の最も面白い場面なので、ご紹介いたしておきましょう。中国のホテル内のステージ付きラウンジで、接待客の谷部長(鶴田忍)、土田課長(金田明夫)、ひかり女史の3人は、少年隊の「仮面舞踏会」を歌って踊ります。なかなかフリも決まってますし、3人とも首には風呂敷風の布を縛り付け、まるで昔のヒーロー「月光仮面」(笑)です。間奏中に、ひかりがマイク・スタンドを蹴り倒すシーンがありますが、これが爆笑ものなんです。かく言う私も、昭和30年代(「Allways 三丁目の夕日」みたいですね)には、月光仮面の真似をして遊んだものでした。
自己満足とは何か
ところが一通りの接待が済むと、王課長は検品の仕事をひかりに任せて、お得意さんと一緒に上海へ遊びに行ってしまったのである。一人残されたひかりは、中国側の公司代表の李さん(鄭浩南)と工場へ商品の検品へと赴くことに。しかし、あの手この手で検品をはぐらかそうとする工場長(NHKで放映した、「大地の子」(山崎豊子原作)でも中国訪日団団長役で出演)連中に、ペーペーのひかりは翻弄されっ放し。頼みの綱の李さんも、のらりくらりとして頼りにならない。結局、自分で頑張るしかないと悟ったひかりは、意地になって仕事を遂行しようとする。しかし、広大な中国大陸の中にあって、彼女はそんな細かなことに振り回される自分の姿が、やけにちっぽけに見えてきてしまうのだった……。
それから数年後、萬福貿易商社にはすっかり一人前に仕事をこなすひかりの姿があった。相変わらず、先輩女子社員のたまごさん(柴田理恵)は、食品部のチャン課長のファンだったが、香港返還を機に萬福貿易を退社することになる。日課になっているホワイト・ボードの「ノーリターン」の文字を見て、「もう、本当に帰って来ないのね!」と号泣(それはもう凄まじい情景)するのでした。
中国へ出張に出かけても、堂々と渡り歩く度量もついた。そんなある日、彼女は出張先で李さんと偶然再会する。公司の仕事を辞め、夢であった会社設立を現実にした李さんは、ひかりに尋ねた。「あなたの夢はなんですか?」その質問に即答できなかったひかりは、帰国後、いつか自分の夢を持てるような仕事を見つけようと心に誓うのであった……。
主人公のキャラクターは今更言うまでもなく抜群ですが、田中邦衛演ずる父親がけっこう良い味出してます。就職がなかなか決まらない娘に、「お金を得るには、稼ぐ、盗る、貰う。この3種類しかないんだ。お前もそのどれにするか、早く決めなさい」と言う場面や、つまらない会社で3年を無駄にしたという娘に「3年無駄にしたなら、3年長生きしなさい。人生の回り道は、年をとると味になる」と言う……。こんな臭い台詞も、田中邦衛がしゃべると何故か妙に納得してしまうから不思議ですよね。
渡辺謙が演じている、主人公の上司、王(ワン)課長も実に面白い。日本に住む華僑で、中国貿易のエキスパート。仕事が出来て、部下の面倒見が良く、男女差別は一切なし。しかも愛妻家で、料理が上手。新しい仕事に対するチャレンジ精神旺盛で、どんな困難な仕事でも楽しみながらやる気構えを持っている。部下や取引先が失敗をしても、相手の面子を立てて強くは叱らない。この映画を観た人は、王課長が「理想の上司」ナンバーワンになること必至でしょう。口髭がチョット怪しいけれど、その辺は許しましょう。また、中国の湖畔でひと休みしている黄昏時、王課長は「二人でお酒を」(梓みちよ)を中国語で口ずさみますが、けっこう上手ですね。
ひかりの隣席にいる菅野先輩役の香川照之や、柴俊夫扮する岩田部長も良い感じです。岩田部長の「日本人がようやく稲作を始めた頃、中国人はシルクロードで国際貿易してたんだもんなぁ……」という嘆息は名台詞でしょうね。王課長の愛妻が桃井かおり(友情出演)という配役もゴージャス。中国側の喰えない商人振りも堂に入っており、わざとらしさがない。この映画は全編が、含蓄のある名台詞と 名場面のオンパレード。安っぽい色恋沙汰に流れることなく、バリバリ働く女性を描いたストーリーは見応えがあるし、字幕を使って時間経過を説明するテンポも良い。会話の途中にSEを使ったギャグが何ヶ所かあるのが、いまいちこなれてないとか、倉庫で商品の畳み直しをする場面のコマ落しがちょいとギャグになりきれていないなど、気になる点がないではないが、これが監督のデビュー作と考えれば「その意気や善し!」と応援したくなってしまいます。とにかく、凄く面白いので機会があったら、是非オススメ!です。
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