内閣府が7月3日、2009年版「青少年白書」を発表しました。それによると、2008年の「ニート」の人数が、前年より2万人多い64万人に増加しています(※非労働力人口のうち、家事も通学もしていない15~34歳を「ニート」と内閣府は定義)。内訳は、24歳以下が26万人で、25歳以上は38万人。ニートの人数が急激に増えた2002年と比較すると24歳以下は3万人減少したものの、25~34歳の「年長ニート」が3万人増えて38万人となっています。また、2008年のフリーター(15~34歳)の人数は170万人です。
それから、厚生労働省が7月13日、親から離れて児童養護施設に入所している児童数(18歳未満)が2008年2月時点で4万1,602人となっていることを発表しました。これは5年ごとの調査で、前回の2003年から8.6%増加し、4万人を超えたのは、戦後の孤児や貧困児童らが多く保護されていた時代の1961年の調査以来47年ぶりで、貧困が広がる日本社会が「不可視の長期内戦状態にある」(辺見庸氏) とも表現できることを示すものだと思います。入所の理由は、児童虐待が全体の33.9%(前回28.4%)を占め初めて3割を超え、親の精神疾患11.1%(前回8.5%)、破産などの経済的理由6.8%(同7.4%)となっています。
日本学術会議と労働政策研究・研修機構が6月6日に開催した労働政策フォーラム「若者問題への接近 - 誰が自立の困難に直面しているのか」の中で、日本女子大学・岩田正美教授は次のように指摘しています。
あなたは、幼児のための手順を示すべき
日本においては、「若者は稼働能力があり、職が得やすい」ことを理由に、貧困救済策の対象として若者を基本的に想定していません。とりわけ日本の場合、貧困な社会保障を「家族」が代替していました。男性正社員の「家族賃金」は、若者をパラサイトする力を持っていたのです。家族の中にいれば、若者はとりあえず社会的にドロップアウトしなくてもすんでいました。いわゆるパラサイトシングルで、30歳になっても40歳になっても家族が支えてきたのです。
ところが、「派遣切り」など雇用破壊で、パラサイトする家族もなく、若者がホームレス化しています。このことは、社会保障からも家族からも若者が排除されていることを示しています。日本では、もともと若者が社会保障の対象ではないので、「雇用」から排除されれば、頼るものは「家族」しかありません。しかし、いま「家族の強さの程度」が低下し、若者がパラサイトできなくなっているわけです。さらに、パラサイトどころか、若者が社会に出る以前から、子ども期の貧困など家族の経済状態も、家族関係も、不安定で、子ども時代に保護されるどころか、児童虐待や両親間の不仲、DVなど、逆に家族関係から逃れたい状況にあるケースが多くなっているのです。そうした家族解体や、家族関係から放逐・排除され� ��若者は、同時に社会保障からも排除される社会構造をあわせ持つ日本社会によって、雇用から排除されればホームレス化するほかないのです。男性正社員の家族賃金→家族形成→パラサイト、というのが、男性正社員の家族賃金解体→低賃金・非正規化・雇用不安→家族解体(パラサイトどころか「子どもの貧困」の拡大)→家族・雇用・社会保障からの若者の排除、となっています。こうした若者の貧困問題は、本人はもちろん日本社会の未来にまで波及する重大な問題です。
同じフォーラムの中で、放送大学・宮本みち子教授は次のように語っています。
なぜ子どもたちが身を守るために支援することが重要です。
成人期への移行の不安定化は先進国に共通する現象ですが、とくに日本は、青年期から成人期への移行政策が遅れています。家族の貧困や崩壊→子どもの貧困→学校からのドロップアウト→学校から仕事への移行過程でのドロップアウト→労働市場からのドロップアウト、という「貧困の世代間連鎖」で、貧困家庭で十分な教育が受けられず、低学歴などハンディを背負った若者を、単純な就労支援では、救うことはできません。基本的な生活支援を含めた包括的な自立支援がいま必要になっているのです。若者が自立するために身につけるべき能力の保障を社会がしなければなりません。
EU諸国では、10代後半の世代の支援策が様々工夫されています。義務教育が終わるとともに、学校を去らざるを得ない家庭環境にある若者たちが、もっともハンディを抱え、困難を抱え、労働市場から排除されてしまうことが多く、ドロップアウトしてからでは支援の効果があがらないことが多いため、若者支援は早期の積極的、能動的な社会政策が必要になっているからです。
ところが日本の若者支援は、せいぜい20代後半期しか考えられていないのが現状で、それも対症療法的なものしかありません。ドロップアウトしている20代後半への支援がいかに困難であるかもすでに様々な現場で現れています。
ドゥルーズの何も、それは動物のことができ、音のボディ
昔の日本は、学校から会社にストレートに行くことがメインストリームで、それを家族が媒介していましたので、若者の状況も容易につかむことができました。ところが、現在は学校からもドロップアウトする若者が増加し、労働市場からもドロップアウトする若者が生み出され、家族関係も崩壊してしまう。家族、学校、会社という3つのトライアングルからも排除されてしまった若者が急増していて、日本においては、困難を抱える若者の実態を把握することすらできない現状になっているのです。高校中退者は年間7万人でそのうち5千人は他の高校に移っているので、年間6万5千人が高校を中退したままドロップアウトしています。
EU諸国は、義務教育の段階で、貧困や家庭崩壊など困難を抱える子どもの現状を把握し支援するとともに、学校を卒業した後も次の支援へとつなげていく試みを行っています。その際、学校が問題を抱え込むのではなく、社会全体で若者の生きる力を引き出す形で支援していくことを重視しています。学校だけで若者問題を解決するのではなく社会全体のサポートで支援して行こうというのがEU諸国の取り組みです。日本のような座学中心の普通教育の知識詰め込み型では、生きる力がつかないのです。EU諸国は、普通の学校で職業訓練をミックスした形で行っています。若者手当・求職者手当など現金給付制度で困難を抱える若者を具体的に支援し、現金給付とセットで教育・職業訓練を実施し就労につなげることを行っ� ��います。
こうしたことを日本でも実施しなければなりません。突破しなければならない最初の課題として、「子どもの貧困」の可視化、困難を抱える若者の「発見の課題」があります。学校段階で困難を抱える子どもを把握することがまずなにより大事です。そして、受験偏重の学校教育の転換、生きる力、仕事につながる学校教育へと改善していく必要があります。
いろいろな困難を抱える若者は、様々な問題をクリアーしなければ、労働市場にまで達しないという問題があるのです。困難度の高い若者ほど、労働市場に達するまでの距離は長いわけです。子ども時代の貧困などのハンディを背負ったために、働く意欲を持てない若者や基本的な生活さえままならない若者については、生活支援、居場所の確保や多様な形態での社会参加、働くための準備・訓練の場やカウンセリングの提供など、困難を抱える若者を孤立させないために、学校と家庭と雇用の間を媒介する社会が必要です。困難を抱える若者が生きられる社会をつくることが求められています。(宮本みち子教授の話の要約はここまで)
他にも宮本教授は、オーストラリアの最も困難を抱える若者支援策の事例として、部屋の掃除もできないなど基本的な日常生活を送ることさえ困難な10代後半の若者に対して、住宅を提供し、生活支援をしながら、人間として基本的な日常生活をできるようにし、徐々にステップアップして労働市場へつなげていく試みなども紹介していました。
最後に一言だけですが、京都大学・太郎丸博准教授の話で、なるほどと思ったところを紹介して終わりにします。
ヨーロッパ諸国では、非正規雇用の問題をめぐってこんな議論がされています。非正規雇用は、「ブリッジ」になるか、「トラップ」になるかで大きな違いがあるということです。「ブリッジ」は、より安定した正規雇用への「架け橋」に非正規雇用がなるという意味です。非正規雇用がより安定した正規雇用へのステップになる必要があるのだということです。「トラップ」は、非正規雇用が不安定で劣悪な労働条件が継続される「罠(わな)」となるケースを指しています。ヨーロッパ諸国では、非正規雇用を「ブリッジ」として機能させることが大事だとしているわけですが、日本においては、若者の雇用に顕著に見られるように、非正規雇用が「トラップ」「罠(わな)」として、若者の自立をはばむものとして大きな問� ��になっているのです。
(byノックオン)
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